第2生物活性研究部

研究部概要

第2生物活性研究部では、創薬に焦点を当て研究を行っている。感染症の病原性発現機構に基づいた独自のスクリーニング系を構築し、微生物培養液から活性物質を探索している。得られた活性物質について作用機序解析を行い、全所的に薬への最適化を図る。併せて、多様性に富んだスクリーニングソース確保のため、土壌、水圏などから微生物を新たに分離し、微生物ライブラリー及び関連化合物等の化合物ライブラリーを構築している。

テーマ

1. 抗多剤耐性結核菌薬の開発

  • 結核は、世界三大感染症(結核、HIV、マラリア)の一つであり、2013年には900 万人の新規感染者が発生し、150 万人の死亡者を出している。特に、HIV との重複感染および既存薬が効かない多剤耐性結核菌(MDRTB)、超多剤耐性結核菌(XDR-TB)の蔓延が深刻な問題となっている。
  • 研究所の創設者、梅澤濱夫博士が日本初の抗結核薬カナマイシンを発見して以来50 余年に渡り、我々は多くの抗結核薬の開発研究を続けてきた。その一連の研究の過程で、結核菌に有効な化合物としてカプラザマイシン類を放線菌の代謝産物中より発見した。更にカプラザマイシン類をリード化合物ととした構造活性研究の結果、カプラザマイシン類より高活性で物性に優れ、動物実験において多剤耐性結核菌に対しても有効な誘導体CPZEN-45 を創出した。
  • 次いで作用機序解析を行い、CPZEN-45 が細胞外壁の生合成に関与する酵素WecA を阻害することを明らかにした。この作用機序は臨床で使われているどの抗結核薬とも異なることから、既存薬に耐性の結核菌の多くに有効であることが期待できる。
  • なお、本物質を一刻も早く医療現場に提供するため、米国で世界の結核患者を救済するために創立された半官半民の組織である”The Lilly TBDrug Discovery Initiative” に2008 年より参画し、開発を急いでいる。

Fig.1 カプラザマイシン類とCPZEN-45 の構造
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2. 抗菌薬トリプロペプチンC の開発

  • MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は常在性のグラム陽性好気性菌で日和見感染菌として知られており、易感染性宿主に敗血症・肺炎・心内膜炎などの難治性の重症感染症を惹き起こす。さらにほとんどの既存薬に耐性を示すことから、新薬の開発が急務となっている。
  • 我々は、上記の病原菌に有効な化合物を微生物代謝産物から探索し、沖縄の土壌から分離したライソバクター属細菌の培養液中から新規リポペプチド系化合物トリプロペプチンC(TPPC)を発見した。
  • TPPC は
    1 既存薬と交差耐性を示さず、MRSA, VRE(バンコマイシン耐性腸球菌), PRSP( ペニシリン系薬剤耐性肺炎球菌) に優れた抗菌力を示した。
    2 静脈内投与で安全性が高く、マウスの MRSAおよびVRE 全身感染モデルにおいてバンコマイシンより優れた治療効果を示した。
    3 既存薬とは異なる機序で細胞壁合成を阻害した。
    4 ベータラクタムと併用することでベータラクタムの MRSA に対する抗菌活性を復活させ相乗的に強い抗菌活性を示した。なお、MRSA は、ごく一部を除くすべてのベータラクタム剤に高度耐性を示す。
  • 現在、TPPC 単剤ならびにベータラクタムとの併用で新規抗 MRSA 薬としての開発を目指して様々なマウスの感染モデルに対する治療効果試験を行っているほか、より治療効果の優れた化合物の創製を目指して半合成誘導体を合成し、その評価を進めている。

Fig.2 Structure of tripropeptin C.
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3. 新型βラクタマーゼNDM-1 の伝播機構に関する研究

Fig.3 Plasmid map of pNDM-1 Dok01 from Escherichia coli NDM-1Dok01.<br>
The gene bla NDM-1 was shown as red.
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  • 抗生物質の効かない病原菌が蔓延し、我々人類の健康の脅威となって久しい。それら耐性に寄与する遺伝子群の多くは可動性のプラスミド上に存在し、同種、異種間を問わず伝播し、急速に広がっていく。すなわち、この伝搬機構の解明こそ、薬剤耐性拡大の抑制に有効であると考えられる。
  • NDM-1は、2008 年に初めて報告された新型βラクタマーゼである。NDM-1をコードする遺伝子blaNDM-1も可動性プラスミド上に存在し、発見以来、南アジアやヨーロッパを中心に急激に拡大している。日本でも2009 年に獨協医科大学病院において、国内初のNDM-1 生産大腸菌が単離された。
  • 本研究テーマは、独協医科大学と協力し、NDM-1の非常に効率的な伝播機構を解明することを目的とする。これまでに、blaNDM-1をコードするプラスミド( 約200kbp) の塩基配列の解析を終了している。今後はこの配列を基に詳細な伝播機構の解明を目指す。

4. 土壌・水圏微生物に関する研究

  • 我々は,有益な生物活性を有する物質を探索するため,現在までに4 万株を超える微生物から培養物ライブラリーを構築している。この微生物培養物ライブラリーの多様性や質は,医薬品になりうる生物活性物質の探索の成否に大きく影響することから,多様性の確保や質の維持管理は当研究部の重要な課題となっている。
  • 放線菌は多様な生物活性をもつ多くの二次代謝産物を作ることから、医薬の探索に最も適したスクリーニングソースの一つである。実際に,臨床上重要な医薬品であるカナマイシン、ブレオマイシン,ジョサマイシン,そしてアクラシノマイシンなどが当研究部で単離された放線菌の二次代謝産物中に発見されている。
  • そこで我々は,放線菌を中心に、ライブラリーの元となる微生物を従来の土壌サンプルより採取するとともに、多様性確保のため、近年では特に深海底泥に焦点を絞り積極的に微生物の単離を行っている。またこれら菌株ライブラリーの多様性を示すために16S rRNA の塩基配列を指標とした遺伝学的な解析手法により菌株の分類を行っている。さらにこれに加え新たな試みとして、MALDI-TOF MS を用いた微生物の多様性解析についても解析手法の確立を進めている。

Fig.4 菌株ライブラリーおよびブロスライブラリー構築の流れ
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5. 新規抗生物質の探索

  • 薬剤耐性菌は既存のほとんどの抗生物質に対して、先進国、開発途上国の如何を問わず世界的に増加しており、これによって発症する感染症によって人類の健康は今後、大きく脅かされることが懸念されている。特に、ESKAPE(腸球菌、黄色ブドウ球菌、クレブシエラ属、アシネトバクター・バウマンニ、緑膿菌、エンテロバクター属)と呼ばれる病原菌は、院内感染症の原因となる薬剤耐性病原菌であり、これらは例えば、ESBL (Extended Spectrum β-Lactamases:基質拡張型β- ラクタマーゼ) や修飾酵素によって抗生物質を不活化させるだけでなく、抗生物質の標的を変化させ薬剤との親和性を低下させて耐性化を誘導する。
  • 近年、抗生物質の標的を変化させる酵素である16S rRNA メチラーゼは特に問題となっており、マクロライド耐性ブドウ球菌やアミノグリコシド耐性の緑膿菌、アシネトバクター・バウマンニ、エンテロバクター属などに見られる。
  • 我々は微生物代謝物質からこの16SrRNA メチラーゼ産生菌に有効な新規アミノグリコシド系抗生物質の探索を精力的に進めている。

Fig.5 新規アミノグリコシド抗生物質の探索
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