創薬化学研究部

研究部概要

1974 年に日吉に設立された微生物化学研究所付属生物有機化学研究所がその前身である。その後、2003 年に微生物化学研究センター日吉創薬化学研究所、2010 年に微生物化学研究所日吉支所と改称され、2015 年の微生物化学研究所新研究棟への移転に伴って現在の創薬化学研究部が発足した。設立当初から有機化学の手法を用いて抗生物質の合成研究およびその開発研究に取り組み、数々の新規医薬品候補化合物を創製して国内外の製薬企業と共同開発研究を行っている。

テーマ

1. アミノ配糖体抗生物質の合成研究

当研究所ではカナマイシン耐性菌の薬剤耐性機構の研究に基づいて、耐性菌に有効な多くの誘導体の合成が行われてきた。この一連の研究によって、耐性菌に対して有効な誘導体の構造をデザインし、合成する道が開かれた。さらに、糖化学における基礎的な各種デオキシ化反応、各種フッ素糖の合成法や位置選択的なアミノ基の保護法などの研究を通じ、抗菌化学療法剤ジベカシンや我国初の抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)薬アルベカシンの開発などの成果を挙げている。

また、設立時のカナマイシン類を始めとして、代表的アミノ配糖体抗生物質であるストレプトマイシンやネオマイシンC などの全合成を達成している。

最近では、副作用が軽減化され、抗菌活性が強化された第4世代のカナマイシン誘導体である2-OH-ABKの創製に成功している。本物質は、その優れた特性から重症細菌感染症治療におけるコンビネーション療法の軸となる薬剤に発展することが期待されている。

Fig.1 アミノ配糖体抗生物質
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2. 新規マクロライド系抗生物質の開発

Fig.2 チルジピロシンの構造
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我々は過去30年以上に渡りマクロライド系抗生物質の化学修飾を精力的に進め、グラム陰性菌にも良好な抗菌力を示す誘導体を多数合成してきた。最近合成されたタイロシン誘導体のチルジピロシンは、牛の呼吸器感染症の原因菌であるパスツレラ菌などに対して選択的に強い抗菌活性を示すことが見出された。本物質は肺への移行性に優れ、自然感染した牛の肺炎に対しても既存薬より優れた治療効果を示したことから開発が進められ、2013年より抗菌動物薬(商品名:ZUPREVO)として世界的規模での販売が開始された。

3. 新しい抗結核薬CPZEN-45の創製

    Fig.3 CPZEN-45 の構造
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    結核は、世界三大感染症(結核、HIV、マラリア)の一つであり、世界中でおよそ20 億人が感染しており、毎年150万人以上が死亡している疾病である。最近の多剤耐性結核(MDR-TB)、有効な薬剤が皆無である超多剤耐性結核(XDR-TB)、およびエイズ患者にみられる難治性結核の増加は、世界の人々の健康にとって非常に深刻な問題となっている。

    2003年、微生物化学研究所において結核菌に有効な物質としてリボヌクレオシド系化合物のカプラザマイシン類が放線菌の代謝産物中より発見された。我々はカプラザマイシンの広範な構造活性相関研究を開始し、より一層の優れた抗菌力と物性を示す誘導体CPZEN-45の創製に成功した。本物質は感染動物モデルを用いた試験において超多剤耐性結核菌に対しても優れた有効性を示した。作用機序解析により、CPZEN-45は細胞外壁の生合成に関与する酵素WecAを阻害することが明らかとなった。この作用機序は臨床で使われているどの抗結核薬とも異なることから、既存薬に耐性を示す結核菌の多くに有効であることが期待できる。

    現在、抗多剤耐性結核菌薬としての開発を目指してCPZEN-45の前臨床研究が進められている。

4. リポペプチド系抗生物質トリプロペプチンCの開発研究

多剤耐性菌の出現とその広範囲への拡散は細菌感症の治療をますます困難にしている。特に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は院内感染において深刻な問題となっている。そのため、これ等の薬剤耐性菌に対して新しい作用機序で効果を示す有効な薬剤の開発が緊急の課題となっている。

当研究所において天然より発見された新規リポペプチド系抗生物質トリプロペプチンCは既存薬とは異なる機序で細胞壁合成を阻害し、MRSA やVRE に対して良好な抗菌活性を示す。我々はトリプロペプチンC をリード化合物として、臨床応用が期待される誘導体の創製を目標に、その構造活性相関研究を鋭意進めている。

Fig.4 トリプロペプチンCの構造
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